医療の知恵袋
〜目で見る市民公開講座〜
2022年11月
2022年11月
今回は、糖尿病とシックデイについて、糖尿病チームより詳しく説明いたします。
シックデイとは
糖尿病の患者さんが発熱や腹痛、嘔吐などで体調を崩したときや、食欲がなく食事がとれないときのことをシックデイと言います。シックデイは、食事をとらなくても血糖値が上がりやすいので、注意が必要です。
- ・風邪、インフルエンザ、コロナウイルスなどの感染症にかかったとき
- ・胃腸炎などの消化器の病気にかかったとき
- ・大きなけがをしたとき
- ・大きなストレスを感じたとき
血糖値の乱れ
シックデイは血糖値が乱れやすく、高血糖にも低血糖にもなりやすいです。
1 高血糖になりやすい
シックデイは、体にとってストレスとなるため、コルチゾールやアドレナリンなどのストレスホルモンが分泌されます。ストレスホルモンは、体調が悪くなったときに体を守る一方で、血糖値を下げるホルモン(以下、インスリン)の働きを弱め、高血糖を引き起こします。糖尿病でなければ、血糖値の上昇に応じてインスリンの分泌が増えますが、糖尿病の患者さんは、それが十分にできません。普段、血糖値のコントロールが良好な患者さんでも、血糖値が著しく上昇することがあります。
2 低血糖になりやすい
シックデイで、食欲がなく食べる量が少ないにもかかわらず、いつもどおりに薬を飲んだり注射したりすると、低血糖が起きてしまいます。
また、下痢や嘔吐によって脱水になりやすい状態です。脱水になると腎機能が低下し、腎臓から排出される薬が体内にたまり、効き過ぎてしまうため、血糖値が著しく低下することがあります。
シックデイの対処法
『シックデイ・ルール』を知っておきましょう!
シックデイ・ルール(食事)
シックデイは、発熱や下痢などによる脱水や、食事がとれないことによるインスリン不足になりやすいです。脱水やインスリン不足を防ぐために、水分や電解質をこまめにとることが大切です。
- ・脱水を防ぐために、1日1L〜1.5Lは水分をとりましょう。
- ・ケトアシドーシス(インスリン不足により、通常は弱アルカリ性の体が酸性になってしまうこと。
意識障害などを起こすことがある。)を防ぐために、なるべく炭水化物をとりましょう。 - ・嘔吐や下痢が続く場合は、塩分などの電解質も失われやすいため、水分と電解質を補給しましょう。
炭水化物を多く含む消化の良い食品
重湯(おもゆ)、おかゆ、おじや、うどん、お茶漬け、葛湯(くずゆ)
水分や電解質の補給に良い食品
野菜スープ、ポタージュスープ、味噌汁、果物ジュース、スポーツ飲料、経口補水液
シックデイ・ルール(薬)
シックデイは、血糖値の変動が大きくなるため、食事の量や症状に合わせて薬の量を調整したり、中止したりする必要があります。
一般的に言われている量の目安を次に示します。患者さんの状態によって対処が異なりますので、医師へ詳しい対処法を事前に確認しておきましょう。
インスリン
インスリン注射は自己判断で中止してはいけません。
基本的に、持効型・中間型インスリンは通常どおり注射します。
超速効型・速効型インスリンは食事の量に合わせて調整し、食後に注射しましょう。
超速効型・速効型インスリンの調整目安例(食事の量での調節)
食事量 | インスリン量 |
---|---|
通常どおり | 通常どおり |
通常の半分以上 | 通常どおり |
通常の半分以下 | 通常の半分量 |
ほとんど食べられない | 中止 |
自分がどのインスリンを使っているか
覚えておきましょう!(当院採用薬)
超速効型100% (透明) | ヒューマログ、ノボラピッド、アピドラ、ルムジェブ | |
---|---|---|
速効型100% (透明) | ノボリンR、ヒューマリンR | |
中間型100% (白濁) | ヒューマリンN | |
混合型 | 速効型:中間型= 30:70(白濁) |
イノレット30R |
超速効型:中間型= 30:70(白濁) |
||
超速効型:中間型= 25:75(白濁) |
||
超速効型:中間型= 50:50(白濁) |
ヒューマログミックス50 | |
速効型:中間型= 50:50(白濁) |
||
超速効型:持効型= 30:70(透明) |
ライゾデグ | |
持効型100% (透明) | グラルギン、ランタスXR、トレシーバ、レベミル |
食事の量や症状に合わせて薬の量の調整、中止をしましょう!(当院採用薬)
経口血糖降下薬・ GLP-1受容体 作動薬 |
主な薬剤名 | シックデイの対処 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
インスリン分泌促 進薬 (SU剤・グ リニド薬) |
グリクラジド、 グリメピリド、 シュアポスト、 ミチグリニド |
食事量が
|
|||||||
α-グルコシダーゼ 阻害薬 |
ミグリトール、 ボグリボース |
食事量が
|
|||||||
ビグアナイド薬 | メトホルミン | 中止 (脱水に伴う副作用が出現しやすくなるため) |
|||||||
チアゾリジン 誘導体 |
ピオグリタゾン | 食事量が
|
|||||||
DPP-4阻害薬 | ジャヌビア、 テネリア、 エクア |
食事量が
|
|||||||
SGLT2阻害薬 | カナグル、 デベルザ、 フォシーガ、 スーグラ |
中止 (脱水に伴う副作用が出現しやすくなるため) |
|||||||
GLP-1受容体 作動薬 |
ビクトーザ、 リキスミア、 トルリシティ |
消化器症状があれば中止 (消化器症状が悪化する可能性があるため) |
シックデイ・ルール(検査)
シックデイは、通常時と比べて血糖値のコントロールが困難になります。
重症な低血糖・高血糖発作や意識障害を防ぐためにも、日々の血糖値などを客観的に確認することが重要です。
なるべくこまめに(3~4時間ごと)血糖自己測定(SMBG)を行い、
血糖値に合わせて適宜インスリン量を調節しましょう。
超速効型・速効型インスリンの調整目安例(血糖値での調節)
血糖値 | インスリン量 |
---|---|
80mg/dL以下 | 10%程度減らす |
200mg/dL以上 | 10%程度増やす |
300mg/dL以上 | 20%程度増やす |
400mg/dL以上 | 30%程度増やす |
可能であれば、自宅で尿ケトン体を測定しましょう。
ケトン体とは?
空腹時(飢餓状態)は、糖の代わりに脂肪酸がエネルギー源として使われます。この時に生成されるのがケトン体です。
ケトン体は酸性の物質で、体内に過剰に蓄積するとケトアシドーシスとなり、意識障害を起こすことがあります。
尿ケトン体はどのように測定するの?
紙コップに尿を採取し、専用の試験紙を尿に浸して取り出したら、水平状態で放置します。規定の時間が経過したら、試験紙の色を見て結果を判定します。
専用の試験紙をお求めの方は、医師または看護師、臨床検査技師までお問い合わせください。
測定時の注意点
- ・測定時間は必ず守りましょう。測定時間は製品によって異なります。
- ・なるべく新鮮な尿で検査しましょう。長時間放置した尿の場合、結果が正しく出ない可能性があります。
シックデイに備えた対策
対応を誤ると、命にかかわる状態に陥ることがあるため、対策が重要です。
シックデイに備えて
- ①シックデイのときは、食事をとらなくても血糖値が上がりやすいというイメージを持っておきましょう。
- ②使用している薬やインスリンの種類を把握し、シックデイ・ルールを主治医、家族と確認しておきましょう。
-
③日頃から体調が悪いときには血糖値や、インスリンが枯渇している患者さん(1型糖尿病など)は尿ケトンを測定する習
慣をつけましょう。 - ④日頃の体重やおおよその尿量を把握しておきましょう。
次のような症状があるときは医療機関を
早めに受診しましょう。
- ・全く食事がとれないとき
- ・下痢や嘔吐などの消化器症状、38度以上の高熱が続くとき
- ・350㎎/dl以上の高血糖が24時間以上続くとき
- ・尿ケトン陽性が24時間以上続くとき
- ・脱水症状が強いとき(体重・尿量の減少)
- ・意識障害があるとき
「医療の知恵袋~目で見る市民公開講座~」について、
閲覧いただきありがとうございました。
皆さんにとって、病気や健康を考える良い機会となれば幸いです。
(公開資料は2022年11月19日時点の情報です。)
コロナ禍でも、医療機関で
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4. | 健康に不安がある時は、まずはかかりつけ医・かかりつけ歯科医に相談しましょう。 |