医療の知恵袋
〜目で見る市民公開講座〜
2021年7月
2021年7月
はじめに
大切な臓器にできますが、みつかりにくい病気です。
刈谷豊田総合病院消化器内科の中江康之です。
今回は膵がんのお話をさせていただきます。
どんながんでもそうですが、小さいうちに見つけることが大切です。気になることがあれば、早めに受診してください。
内容が多くかなり密になっています。見づらくて申し訳ありません。
わからないことや疑問に思われたことは、遠慮なく質問してください。
膵臓はどんな臓器?
膵臓は、みぞおちのあたり、胃の後ろにある長さ20cmほどの左右に細長い臓器です。本人側からみて右側のふくらんだ部分は膵頭部(頭部)といい、十二指腸に囲まれています。左側の幅が狭くなっている部分は膵尾部(尾部)といい、脾臓(ひぞう)に接しています。膵臓の真ん中は体部といいます。
膵管という細長い管が、膵臓を貫いて網の目のように走っています。
膵臓には2種類の細胞群があり、それぞれの役割があります。
- 食物の消化を助ける消化液(膵液)の産生(外分泌機能)
- 血糖値の調節などをするホルモンの産生(内分泌機能)
「膵がん」とはどんながん?
※ | 一般に「膵がん」というと、「浸潤性膵管がん」のことを言います。 |
---|---|
※ | 周囲に浸潤・転移しやすく、抗がん剤が効きにくいがんです。 |
→そのため、みつかったときには進行していることが多く、治療効果が低いがんです。 |
罹患者数と死亡者数がほぼ同数(年間約30,000人)であり、難治性がんの代表。 | |
発生部位は、膵臓の体尾部にくらべ、頭部に多い。 | |
膵がんの90%以上は、膵管(主に導管細胞)から発生する「膵管がん」。 (他に嚢胞性腫瘍や腺房細胞がん、神経内分泌腫瘍、など) |
|
組織型(がん細胞自体の形や細胞が集まった組織の形状による分類)は管状腺がんが大多数。 | |
膵臓には胃や大腸のような筋層(筋肉の層)といった防波堤がないため、周囲の臓器(血管、神経、リンパ節)に浸潤しやすい。 |
2017年の罹患数が多い部位
1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | 膵がんは | |
---|---|---|---|---|---|---|
男性 | 前立腺 | 胃 | 大腸 | 肺 | 肝臓 | 7位 |
女性 | 乳房 | 大腸 | 肺 | 胃 | 子宮 | 6位 |
総数 | 大腸 | 胃 | 肺 | 乳房 | 前立腺 |
※男性は40人に1人、女性42人に1人、がんになる。
2019年の死亡数が多い部位
1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | |
---|---|---|---|---|---|
男性 | 肺 | 胃 | 大腸 | 膵臓 | 肝臓 |
女性 | 大腸 | 肺 | 膵臓 | 胃 | 乳房 |
合計 | 肺 | 大腸 | 胃 | 膵臓 | 肝臓 |
※男性は51人に1人、女性は58人に1人、膵がんで亡くなる。
膵臓がんの診療
がんの疑い
「体調がおかしいな」と思ったら、なるべく早く受診しましょう。
理由なく糖尿病が悪化したときも、主治医に相談してください。
受 診
受診のきっかけや、気になっていること、症状など、何でも担当医に伝えてください。
メモしておくと整理できます。いくつかの検査や次の診察日が決まります。
検査・診断
担当医から検査結果や診断について、説明があります。
説明内容をよく理解しておくことは、治療法の選択する際に大切です。わからないことは、繰り返し質問しましょう。検査が続くことや、結果がでるまで時間がかかることがあります。
治療の選択
がんや体の状態に合わせて、担当医が治療方針を説明します。ひとりで悩まずに、担当医と家族、周りの方と話し合ってください。あなたの希望に合った方法を、見つけましょう。
治 療
治療が始まります。
気づいたことや困ったこと、つらいことなど、何でも担当医や看護師、薬剤師に話してください。よい解決法が見つかることがあります。
経過観察
治療後の体調変化やがんの再発がないかなどを確認するために、しばらくの間、通院します。
検査を行うこともあります。
- 国立がん研究センターがん対策情報センター 編集
- 「がんの冊子 各種がんシリーズ 膵臓がん」より引用(一部改変)
がん診療で心がけてほしいこと
情報を集めましょう。 |
|
自分の病気についてよく知ることから始めましょう。 |
病期(病気の進行度)に対する心構えを決めましょう。 |
|
心構えは人さまざまです。正解はなく、その人なりの心構えでよいと思います。 |
膵がんの初発症状
膵頭部がんは、体尾部がんに比べ、症状が出る頻度が高いです。 |
|
膵がんは特有の症状に乏しいので、症状は早期発見の指標にはなりません。腹痛など腹部症状がある場合や、糖尿病が発症・増悪した時は、膵がんを念頭に検査を行う必要があります。 |
膵がんのリスクファクター
このような方が、膵がんになりやすい、といわれています。
家族歴 | |
膵がん患者で、家族に膵がんにかかられた方がいる割合は3~10% 家族性膵がん家系では、膵がんリスク比が6.79倍 |
遺伝性疾患 | |
遺伝性膵炎:加齢に伴い膵がん発症リスクが60~87倍に増加 遺伝性乳がん卵巣がん症候群、遺伝性非ポリポーシス大腸がん、家族性大腸ポリポーシス、Peutz-Jeghers症候群、 家族性異型母斑黒色腫症候群 |
合併疾患 | ||
糖尿病:発症1年未満の発症リスクは5.38倍 新規発症の糖尿病や、急激な血糖コントロール 不良の場合は膵臓の精密検査が必要 慢性膵炎、IPMN(膵管内乳頭状粘液産生性腫瘍)、肥満 |
合併疾患 |
糖尿病: | 発症1年未満の発症リスクは5.38倍 | |
新規発症の糖尿病や、急激な血糖コントロール 不良の場合は膵臓の精密検査が必要 |
慢性膵炎、IPMN(膵管内乳頭状粘液産生性腫瘍)、肥満
嗜好 | ||
喫煙:膵がん発症リスクは1.68倍 大量飲酒 |
嗜好 |
喫煙:膵がん発症リスクは1.68倍 | |
大量飲酒 |
その他 | ||
血液型O型、B型肝炎ウイルス感染、ヘリコバクターピロリ感染、など |
膵がんの診断をするときに行う検査
腹部超音波(エコー)検査 | |
体外から超音波プローブを当てて行う、負担が少なく簡便に行える検査です。 |
腹部超音波(エコー)検査 |
体外から超音波プローブを当てて行う、負担が少なく簡便に行える検査です。 |
CT検査 | |
X線で体の内部を描き出し、病変を調べ得る検査です。膵がんの検査では、造影剤を用いた検査が推奨されています。 |
CT検査 |
X線で体の内部を描き出し、病変を調べ得る検査です。膵がんの検査では、造影剤を用いた検査が推奨されています。 |
MRI検査 | |
磁気を使って体の内部を撮影する検査で、CTと異なる情報が得られます。 |
MRI検査 |
磁気を使って体の内部を撮影する検査で、CTと異なる情報が得られます。 |
超音波内視鏡検査(EUS) | |
超音波装置の付いた内視鏡を口から入れて、胃や十二指腸から膵臓を観察する検査です。体外からの検査より詳細に病変を観察することができます。 |
超音波内視鏡検査(EUS) |
超音波装置の付いた内視鏡を口から入れて、胃や十二指腸から膵臓を観察する検査です。体外からの検査より詳細に病変を観察することができます。 |
MR胆管膵管撮影(MRCP) | |
MRIを使って胆管や膵管の形状を調べる検査です。ERCPに近い画像が得られ、ERCPより負担が少なく検査できます。 |
内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP) | |
内視鏡を口から入れ、十二指腸乳頭から造影剤で胆管や膵管を造影します。膵液や胆汁を採取や黄疸を減らす処理も行えます。 |
PET検査 | |
放射性フッ素を注射し、その取り込みから全身のがんを検出する検査です。 |
血液検査 | |
膵酵素や腫瘍マーカーを測定します。 |
膵がんの臨床病期と治療
検査の結果をもとに、病期(病気の進行度)を分類します。病期はがんの大きさや広がり、リンパ節や他の臓器への転移の有無で決まります。
病期により、治療方針を検討します。原則は以下のアルゴリズムに沿って考えていきますが、患者さんの体調や希望をお聞きした上で、決めていきます。
大きさが2cm以下で、膵臓からはみ出しておらず、リンパ節転移もない(0期は膵管内のみ)。
膵臓からはみ出し、膵周囲の主要血管に及ぶ。
大きさが2cm以上で膵臓からはみ出しているが、膵周囲の主要血管に及んでいない。
離れた臓器(肺や肝臓など)への転移がある。
膵がんの治療
膵がんの標準的な治療法は手術(外科的療法)、薬物療法(化学療法)、放射線療法の3つです。
がんのひろがり(病期)や全身状態などを考慮し、これらのうち1つ、あるいは複数を組み合わせた治療(集学的治療)を行います。
手術 | |
手術で切除できると考えられる場合に行います。 ・膵頭十二指腸切除術 ・膵体尾部切除術 ・随全摘術 |
手術 |
手術で切除できると考えられる場合に行います。 ・膵頭十二指腸切除術 ・膵体尾部切除術 ・随全摘術 |
化学療法 |
基本の薬としてゲムシタビンと5-FU系の2種類があり、 それぞれいくつかの薬を併用、あるいは単独で、治療を行います。 |
1.術前あるいは術後補助化学療法 手術後に化学療法を行うことで、再発しにくくなったり、生存期間が延長したりすることが示されています。 また、切除可能境界例で術前に行うことで、切除可能になる場合があります。 2.手術できない場合の化学療法 生存期間を延長したり、症状を和らげたりする効果があります。 |
化学療法 |
基本の薬としてゲムシタビンと5-FU系の2種類があり、それぞれいくつかの薬を併用、あるいは単独で、治療を行います。 1.術前あるいは術後補助化学療法 手術後に化学療法を行うことで、再発しにくくなったり、生存期間が延長したりすることが示されています。 また、切除可能境界例で術前に行うことで、切除可能になる場合があります。 |
2.手術できない場合の化学療法 生存期間を延長したり、症状を和らげたりする効果があります。 |
放射線療法 | |
1.化学放射線治療 化学療法と放射線治療を組み合わせた治療で、治療効果を高めることができます。 遠隔転移ないが、がんが主要な血管を巻き込んでいるために切除できない場合に行います。 2.緩和治療としての放射線治療 骨転移などの疼痛を和らげる1つの方法として、その部位に放射線を当てることがあります。 |
放射線療法 |
1.化学放射線治療 化学療法と放射線治療を組み合わせた治療で、治療効果を高めることができます。 遠隔転移ないが、がんが主要な血管を巻き込んでいるために切除できない場合に行います。 |
2.緩和治療としての放射線治療 骨転移などの疼痛を和らげる1つの方法として、その部位に放射線を当てることがあります。 |
膵がんに関する書籍や資料
ご自分で調べるときの参考にしてください。
患者さん・ご家族・一般市民のための膵がん診療ガイドライン2019の解説 (第3版)
(日本膵臓学会膵癌診療ガイドライン改訂委員会 編集 金原出版株式会社 2,420円)
医師用「膵癌診療ガイドライン」を一般の方向けにやさしくわかりやすく解説した本です。
国立がん研究センター がん情報サービス 一般向けサイト
「それぞれのがんの解説」>「資料室」あるいは「日本人に多いがん:膵臓がん」から「がんの冊子」がダウンロードできます。また電子冊子や音声版もご利用できます。
「医療の知恵袋 ~目で見る市民公開講座~」について、
閲覧いただきありがとうございました。
皆さんにとって、病気や健康を考える良い機会となれば幸いです。
(公開資料は2021年7月20日時点の情報です。)
コロナ禍でも、医療機関で必要な受診をしましょう
1. | 過度な受診控えは健康上のリスクを高めてしまう可能性があります。 |
---|---|
2. | コロナ禍でも健診や持病の治療、お子さまの予防接種などの健康管理は重要です。 |
3. | 医療機関や健診会場では、換気や消毒でしっかりと感染予防対策をしています。 |
4. | 健康に不安がある時は、まずはかかりつけ医・かかりつけ歯科医に相談しましょう。 |