医療法人豊田会 刈谷豊田総合病院

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腹腔鏡下手術

腹腔鏡下手術とは?

2006年7月に世界のホームラン王である王貞治さんが胃がんとなり、胃を全て切除する胃全摘出術でおなかを切らない外科手術である腹腔鏡下手術(ふくくうきょうかしゅじゅつ)によって治療が行われました。新聞やマスコミで大きく取り上げられたことで、腹腔鏡下手術という言葉が一般の方々に知られるようになってきました。しかしながら、まだまだ腹腔鏡下手術をご存知のない方々もたくさんいらっしゃると思います。皆さまは、おなかを切らない腹腔鏡下手術がどのような手術か知っていますか?
この腹腔鏡下手術とは、現在行われている胃の内視鏡(胃カメラ)や大腸の内視鏡(大腸カメラ)を使用してポリープや腫瘍を切除する消化管内視鏡手術とは全く異なる手術です。従来は外科医がおなかを大きく切り開いて胃がん、大腸がんなどの手術治療を行ってきました。一方、腹腔鏡下手術では、大きくおなかを切り開かずに腹腔鏡(ふくくうきょう)と呼ばれるカメラ(電子スコープ)を使用しておなかの中の様子をモニター画面に映し出し、3㎜、5㎜、10㎜程のいくつかの小さな孔をおなかに開けて、長い手術道具をおなかの外から操作して行います。
腹腔鏡下手術が開発されるまでの外科手術は、開腹手術しかありませんでした。開腹手術とは、まずおなかを大きく切り開きます。その大きく切り開いたおなかの傷を利用して何人かの外科医師がいくつかの手や手術器具を切り開いたおなかの中に直接入れて、目(肉眼)でおなかの中の臓器を見ながら病気になった悪い部位を外科医の手で切り取って、つなぎ合わせます。その後に大きく切り開いたおなかの壁を糸で縫い合わせる方法が外科手術の中心でした。
一般の患者さんは、「手術は大きくおなかを切り開くので、手術後の痛みも強く怖いもの」というイメージがありました。ところが、1990年に胆のうに石のある胆石症患者さんに対して日本で初めて腹腔鏡下手術が行われ、外科学会で報告されました。胆のうを取り出す手術がおなかを切らずに小さな孔だけで行える腹腔鏡下手術の時代が到来したのです。それ以来日本中に腹腔鏡下胆のう摘出術は爆発的に広がりました。その後、さまざまな病気に対しておなかを切り開く手術ではなく腹腔鏡下手術が行われるようになり、現在でも日々確実に進化しているのです。

方法は?

“腹腔(ふくくう・ふくこう)”とは、いわゆる「おなかの中の空間」であり、胃や腸や肝臓などが納まっているところです。“鏡”とは「カメラ」を意味しています。つまり「おなかの中の空間」に「カメラ」を入れて行う手術です。手術時に使用するカメラは腹腔鏡(ふくくうきょう)と呼ばれ、先端が自由に曲がる胃カメラのようなものもあります。
腹腔鏡下手術は全身麻酔で行い、寝ている間に「おなか」の壁に3mmから10mmの小さな孔を開けます。トロッカーと呼ばれる細い筒をその小さく切開した皮膚の穴から差し込みます(図1)。そのトロッカーの先端より腹腔内に炭酸ガスを注入します(図2)。その筒の中に腹腔鏡(カメラ)を通すことで、おなかの中全体を見ることができるのです(図3)。トロッカーの先端は刃物のようにとがっていない安全な筒を使用しています。腹腔鏡(カメラ)は現在用いられている胃カメラと同様の電子スコープというもので、おなかの中の臓器や血管、神経などがフルハイビジョンによるカラー映像で、人間が目(肉眼)で見るよりはるかに微細で鮮明に映し出されます。腹腔鏡の手術映像は、髪の毛ほどの血管が2㎝以上の太さで映し出され、驚くほど拡大して詳細に見ることができるのです。


  • 図1

  • 図2

  • 図3

しかし、ただカメラを入れるだけではおなかの中には空間がありませんので、中をのぞき込むことができません。おなかの中にきれいな炭酸ガス(CO2:二酸化炭素)を吹き入れることでおなかの壁がドーム状に持ち上がり、十分な空間が確保できるのです。手術時、患者さんは仰向きに寝ているため、胃、大腸、小腸、肝臓、胆嚢、子宮などの臓器は背中のほうに落ちており、炭酸ガスの注入でおなかの壁だけがまるでテントを張ったように持ち上がった状態になります(図4)。注入された炭酸ガスは手術が終わればトロッカーの筒から抜き取りますが、体内に残っても早期に吸収され、呼吸で口から外に出て行きますので全く心配はいりません。
おなかの壁を炭酸ガス(CO2:二酸化炭素)で持ち上げて空間を確保した後にさらに2~3個の小さな穴をあけ、そこより特殊な電気メス、超音波凝固メス、はさみ、ピンセットなどの鉗子(かんし)と呼ばれる器械をおなかの中に挿入します(図5)。手術室のいくつかのモニターに腹腔内の詳細な映像が映し出されます。それらのモニターを見ながら、私たち外科医は非常に細かい作業で手術を行うのです。
小さな穴だけで胃がん、大腸がん、脱腸(鼠径ヘルニア)、胆のう結石症などのあらゆる手術が可能になりましたが、菜箸(さいばし)のような長い器械を使用して、実際に外科医が手で触れることなく、二次元平面画像であるモニター画面だけを見ながら行う手術ですので、外科医にとって難易度は高く、高度な技術が必要となります。従って、腹腔鏡下手術のトレーニングを積んだ外科医が行う手術なのです。
腹腔鏡下手術は、患者さんにとっては傷が小さいことから術後の痛みは極めて少なく、 術後の歩行や食事の開始も早いと言われ、入院期間も短く社会復帰や仕事への復帰も考慮した早期退院が見込めます。ご高齢の方でも手術後の回復が早いといわれているため、適応する方には実施を検討しています。


  • 図4

  • 図5

対象は?

以下に一般的や先進的な施設で腹腔鏡下手術が可能なものを挙げます。

現在行われている消化器・一般外科における腹腔鏡下手術

  • 食道がん・食道腫瘍手術
  • 胃がん・胃腫瘍手術(胃切除術、胃全摘出術)
  • 大腸がん・大腸腫瘍・大腸炎手術(大腸切除術、大腸全摘出術)
  • 肝臓腫瘍手術
  • すい臓腫瘍手術
  • 胆のう摘出術(胆石症・胆のうポリープの手術)
  • 総胆管結石症手術
  • ヘルニア修復術(脱腸の手術)
  • 逆流性食道炎に対する手術
  • 脾臓摘出術
  • 小腸腫瘍手術
  • 虫垂炎手術(もうちょう)
  • 十二指腸潰瘍穿孔性腹膜炎手術
  • 一般的な腹膜炎手術
  • 腸閉塞症手術
  • 腹壁瘢痕ヘルニア手術

腹腔鏡下胃がん(胃癌)手術、大腸がん(大腸癌)手術とは?


  • 図6

  • 図7

胃がん(胃癌)、大腸がん(大腸癌)の腹腔鏡下手術では、3-12mmの4~6カ所小さな穴から手術を行います。その中の1カ所から腹腔鏡と呼ばれるカメラ(電子スコープ)を挿入して腹腔内の胃や大腸の様子をモニターに映し出します。
手術は一般的に3人で行います。一人の外科医が腹腔鏡カメラを持って正確な映像を映し出します。手術操作は2名の外科医が両手を使って、4個の小さな穴から鉗子と呼ばれる長くて細い手の代わりをする器具を挿入して、モニターに映し出された胃や大腸の血管を丁寧に一本ずつ切っていきます(図6、7)。超音波凝固切開装置と呼ばれる特殊な止血装置を使用することで、普通の開腹手術のようにおなかの中に手を入れて血管を糸で縛ることなく、凝固止血をしながら切り離していきます。この操作を数ミリずつ何度も丁寧に繰り返すことで、おなかの中で胃や大腸が周囲の臓器から切り離されます。その後4cm程の切開を置きます。その4cm程切開した小さな穴より、病気のがん(癌)の部位の胃や大腸をおなかの外に取り出します。胃がん(胃癌)の場合は、病変部を切除後は、その4cmの穴を利用して残った胃と十二指腸か小腸をつなぎ合わせます。同様に大腸がんの場合は大腸と大腸か大腸と小腸をつなぎ合わせます。このような方法で非常に小さな傷だけで、胃がんや大腸がんの手術が可能になるのです。

図8、図9は腹腔鏡下手術後の患者さんの腹部の写真です。図10の開腹手術の傷と比較すると非常に小さな傷あとです。何年もするとほとんど傷あとは消えてなくなってしまう患者さんもいらっしゃいます。
おなかを大きく切開する開腹手術では目(肉眼)で見ながら手術を行いますが、目(肉眼)では見ることのできない臓器の裏側や細かい神経走行もハイビジョン映像により拡大視しながら詳細に確認できます。がん(癌)細胞が含まれる可能性のあるリンパ節を丁寧に切除し、必要な神経をできる限り温存することで患者さんのがん(癌)の再発が防止でき、将来の生活の質の向上を目指します。


  • 図8

  • 図9

  • 図10

腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術(ラパヘル)とは?

【手術方法】 ・おなかに1~2㎝の小さな穴を3カ所作る。
・この穴から腹腔鏡カメラを入れる。
・おなかの中に炭酸ガス(CO2)を注入して腹壁を持ち上げて大きな空間を作る。
・内部を詳細に観察し、筋肉の開いたヘルニア門(脱腸の出口)の位置や種類を正確に診断する。
・細く長い手術器具を使用して腹腔内の操作を行う。
・医療用の薄い網(メッシュ)のシートを小さな孔からおなかの中に入れる。
・おなかの中でそのシートを筋肉の欠損している穴の部分に内側から大きく覆うようにあてて閉じる。


このメッシュは特殊なポリプロピレンやポリエステルでできており、50年以上体内に入れておいても大丈夫な素材でできています。 タイヤのパンクを内側から直すように、皮膚や筋肉を切り開くことなく、おなかの中から裏打ちのメッシュをあてて修復する極めて理にかなった治療法です。 広げたメッシュが移動することが考えられますので、メッシュを縫合するのではなく、しばらくすると溶けてなくなる吸収性の小さなクリップで筋肉などに何カ所かメッシュを固定します。 おなかの内側には「痛い」と感じる痛覚神経が基本的にありませんので、クリップ固定部やメッシュ展開部の痛みはほとんどありません。 鼠径ヘルニアの治療は、メッシュにより筋肉の緩みを固定する手術ですので、筋肉がある程度固定されることで手術後ある程度の突っ張り感はありますが、痛みは非常に少ない手術となっています。 このため、手術後に鎮痛剤をまったく使用しなかった患者さんも半数以上いらっしゃいます。

当院の標準的手術では、非常に小さな3個(5,5,3㎜)の穴だけで超細径化手術を行っています。手術後の痛みは極めて少なく、傷あとはほとんど残りません。鼠径ヘルニア(脱腸)をしばらく放置してしまい、ヘルニアの穴が大きく成長してしまった患者さんや特殊なヘルニアの患者さんには、若干大きなメッシュを使用します。手術時に作る穴を少し大きな穴にして治療する可能性があります。
手術に使用した3カ所の切開した皮膚は、手術後に皮膚用接着剤で固定しますので、手術終了時には入浴できる状態になります。手術後の消毒・抜糸などに伴う通院は必要ありません。手術後1~2週間前後と3カ月前後に1回ずつ受診していただきます。

お腹の中から腹腔鏡でみたヘルニアの穴

図11、12は腹腔鏡にておなかの中からみたヘルニア(脱腸)の穴です。正確に穴の位置が診断でき、さまざまなヘルニアの種類が確認できます。


  • 図11

  • 図12


図13

手術直後の皮膚の傷

図13は超細径化手術終了時のおなかの傷あとです。皮膚用接着剤で固定されています。手術後に消毒や抜糸は必要なく、手術翌日から入浴も可能です。時間がたてば、傷あとはほとんど消えて分からなくなってしまいます。

腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術(ラパヘル)の手術成績

当院での手術後の再発は非常に少なく、0.4%(1000人に4人)以下となっています。日本における一般病院の再発率は4~5%(1000人に40~50人)程度といわれていますので、全国レベルの10分の1以下の再発率となっています。技術の高い外科スタッフが手術を行ってきたこと、腹壁ヘルニアに対する高性能の手術器具や多種多様な手術材料を整備して手術に臨んでいることが再発率の低下につながっていると考えています。
また、全国の合併症率は8.1%(1000人に81名)程度といわれていますが、当院の合併症率は1.0%(1000人に10名)以下となっています。最高齢95歳の患者さん2名を含めた3000名以上のラパヘル手術症例の中で、手術後感染にて網(メッシュ)除去した例や輸血を必要とする大きな合併症は現時点では一例もありません。

腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術(ラパヘル)の入院前後の経過

おへその近くの小さな穴から手術を行いますので、手術の前に陰毛などの毛を剃る必要は一切ありません。この手術は非常に繊細な操作が必要で、難易度の高い手術です。麻酔は、全身麻酔で眠っていただいて手術を行っています。全身麻酔の手術ですが、鼻から入れる胃の管やおしっこの管なども標準的な鼠径ヘルニアの場合には使用していません。両側治療の場合や難しい特殊なヘルニアの場合には必要となることがあります。
手術室では、麻酔の導入や手術の準備に1時間ほどかかります。手術時間は一般的には60分~90分ほどです。手術後は1時間ほどかけてゆっくり麻酔を覚まします。手術室滞在時間は約4時間前後となります。手術の難易度や両側治療の有無により手術時間は前後する場合があります。手術後は麻酔が完全に覚めてから病室に戻り、その後はトイレに歩いて行くことができます。おなかの壁を治療するだけの手術ですので、麻酔が覚めれば1~2時間後には食事ができます。
手術前日の午後に入院し、翌日に手術を行って、手術翌日の血液検査・X線検査などに異常がなければ午前中には退院できます。基本的に2泊3日の入院ですが、手術日程を短くしたい方は診察時にご相談ください。
できる限りご希望に沿うように検討いたします。

2004年から開始した腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術(ラパヘル)の手術件数は年々増加し、2009年からは小児ヘルニアにも適応を拡大しました。2004年の開始当初から現在まで、ほとんど再発のない手術を行っています。

手術は受ける病院で手術法や経過が異なります。ヘルニアの種類、年齢、全身状態、既往症などにより手術法や手術内容が異なることもあります。一生に何回も鼠径ヘルニア手術は受けませんが、再発させずに合併症の少ない手術を初回に受けることが非常に大切です。腹腔鏡ヘルニア専門外来では、患者さんとご相談しながら患者さんが希望される最も良い治療方法を選択しています。いつでもお気軽にご相談ください。

おなかを切らずに虫垂炎(一般的には「もうちょう」と言われている病気)
腹膜炎・癒着性腸閉塞症の手術ができるの?

急性虫垂炎(もうちょう)、腹膜炎、腸閉塞症などは突然おなかが痛くなる病気です。これらの中にはCTやX線検査、血液検査でもおなかの痛む原因や病気の部位がはっきりしない場合があります。
今までの開腹手術では、おなかの中の隅々まで確認するためには大きくおなかを切り開く必要がありました。しかし、腹腔鏡下手術では、腹腔鏡と呼ばれるカメラを5㎜や10㎜の小さな孔から入れることで、おなかを大きく切らずにおなかの中を隅々まで観察して診断ができます。
急性虫垂炎(もうちょう)、腹膜炎、腸閉塞の場合には5mmや12mmの小さな孔を普通の場合には3カ所開けます。その中の1カ所から腹腔鏡カメラ(電子スコープ)を挿入して虫垂炎の炎症の程度や腸閉塞の原因となる癒着(腸がくっついてしまうこと)の様子をモニターに映し出すことができます。癒着性腸閉塞の場合には、大きくおなかを切らずに癒着の部分のみはずすことで劇的に腹痛が治ってしまう方もいらっしゃるのです。
腹膜炎ではおなかの中にある腸や虫垂などが破れて腸液やうみでおなかの中がいっぱいになってしまうことがあります。腹腔鏡下手術ではカメラで病気の位置を十分に確認しながら、生理食塩水でおなかを隅々まで洗浄することができます。おなかを大きく切り開くことなくきれいになるまで洗浄してそのまま治療することが可能です。急性虫垂炎(もうちょう)では、炎症を起こしている虫垂をおなかの中で切り取って別の傷をつけることなく、10mmのトロッカーと呼ばれる筒から取り出すため、ほとんど傷の残らない手術ができるのです。
当院の外科では患者さんと治療法を手術前に十分に相談して、腹腔鏡下手術の適応を決定しています。あらゆる治療は、第一に患者さんの利益になることが求められます。患者さんには十分治療内容が説明され、患者さんから同意を得た上で治療法の選択は行われなければならないと考えています。腹腔鏡下手術は非常に良い治療法の一つであると考えていますが、あくまでも治療方針を最終的に決定するのは患者さんご自身であることを常に基本としています。

入院期間・費用は?

手術費用と入院期間の目安、および1割負担の方、3割負担の方の自己負担金額は以下のとおりです。

腹腔鏡下手術主な内容 入院期間 手術費用(入院費含む) 1割負担者 3割負担者
胃がん(腹腔鏡下胃切除術) 9日 150万円 5.76万円 45万円
胃がん(腹腔鏡下胃全摘術) 9日 170万円 5.76万円 51万円
食道がん(腹腔鏡下食道悪性腫瘍手術) 14日 280万円 5.76万円 84万円
結腸がん(腹腔鏡下結腸悪性腫瘍切除術) 10日 140万円 5.76万円 42万円
直腸がん(腹腔鏡下直腸切除・切断術) 10日 180万円 5.76万円 54万円

医療費が高額と予想される患者さんについて

費用は高額療養費の対象になります。

健康保険や国民健康保険加入者が、同じ月内に同じ医療機関に支払う医療費の自己負担額(食事の費用・自費分は除く)が高額になった場合は、限度額の認定証の交付を受け、入院事務担当者にご提示いただくと、病院窓口での自己負担額が限度額までの金額となります。(70歳未満の方が対象で、健康保険組合や国保窓口に事前に申請が必要です。)
詳しくは入院案内もしくは当院医事室へお問い合わせください。

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