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ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)
ESDとは?
ESDとは「内視鏡的粘膜下層剥離術:Endoscopic Submucosal Dissection」の略語です。
食道や胃、大腸の壁は粘膜層、粘膜下層、筋層という3つの層からできていますが、がんは最も内側の層である粘膜層から発生するため、早期がんの中でもさらに早期の病変に対して、胃カメラや大腸カメラで消化管の内腔から粘膜層を含めた粘膜下層までを剥離し、病変を一括切除するという治療法です。
胃で最も早く2006年より保険収載され、次に食道で2008年、大腸で2011年より、国が認めた保険治療として現在では標準的に行われるに至っています。
それまではEMR(内視鏡的粘膜切開術:endoscopic mucosal resection)という、スネアと呼ばれる輪っかで切除していましたが、切除できるサイズに限界があり(胃では通常2cmまでとされていました)、しばしば分割切除になるため、正確ながんの進行度の評価ができず、がんが残ったり、本来は追加手術しなければいけない病変をそのままにしてしまったりすることで再発を招いていました。
EMRの弱点を克服した治療法がESDです。さまざまなナイフで粘膜を薄く剥いでいく技術が研究され、大きな病変でも一括で切除することが可能となりました。当院でもESDを2005年より導入し、2023年3月までに約1,400例に行っています。
対象は?
内視鏡的切除術の原則は「リンパ節転移の可能性がほとんどなく、腫瘍が一括切除できる大きさと部位にある」ことです。
食道、胃、大腸において、ガイドラインにより適応が定められています。
食道
内視鏡切除が適応となるがんの深さは、原則的には「がんの浸潤が粘膜内とどまるもの」です。
「粘膜下層まで浸潤したもの」は原則的には内視鏡的切除ではなく、化学放射線療法や外科切除といったより負担の大きな治療が適応となります。しかし、実際には術前の深達度診断は難しく、時に本来よりも深く読んでしまい過剰な治療になる場合もあるため、わずかに粘膜下層まで浸潤していることが予測された場合も診断的に内視鏡的切除を行うこともあります。また、切除後の潰瘍の範囲が3/4周以上全周に及ぶような病変や、長軸5cmを超える病変では内視鏡的切除後の狭窄発生リスクが高くなるため、狭窄予防が必要になります。
胃
がんの大きさや組織型(分化型か未分化型か)、深さ、潰瘍合併の有無により規定されます。
内視鏡治療の絶対適応病変は主に以下のとおりです。
・潰瘍伴わない、粘膜内にとどまる分化型がん。大きさは問わない。
・潰瘍伴う、3 cm以下の粘膜内にとどまる分化型がん。
・潰瘍伴わない、2 cm以下の粘膜内にとどまる未分化型がん。
それ以外の病変の標準治療は外科的胃切除ですが、年齢や併存症など何らかの理由で外科的胃切除を選択し難い早期胃癌の場合には、推定されるリンパ節転移率などを考慮しつつ、内視鏡的切除が選択される場合があります。
大腸
「最大径が2cm以上の早期がんまたは最大径が5mmから1cmまでの神経内分泌腫瘍、また最大径が2cm未満であっても繊維化を伴う早期がん」とされています。
治療前にはがんの深さが正確に確認できないため(超音波内視鏡による補助診断はあります)、ESDの適応かどうかは内視鏡医の判断に委ねられます。最終的には切除後の病理組織診断結果によって決定されます。そのため、治療前に適応病変と判断されていても、治療後に適応外と判明することもしばしばあり、その際は追加の外科手術が必要になります。
これらの条件を基本とし、患者さんの状態(年齢や基礎疾患、長時間の麻酔下での治療が可能か)と患者さんの希望を総合的に判断して、治療の適応を決定します。
利点は?
侵襲が非常に少ない点です。侵襲というのは患者さんが受ける身体的負担のことです。
外科手術は臓器を周囲のリンパ節と一緒に切除しますが、早期のがんでも特に早期のものはリンパ節転移がほとんどないため、ESDを選択することで局所のみの切除となり、臓器をほぼ温存できます。
実績は?
食道 | 胃 | 大腸 | |
---|---|---|---|
2019年度 | 17件 | 51件 | 31件 |
2020年度 | 11件 | 46件 | 40件 |
2021年度 | 13件 | 70件 | 54件 |
2022年度 | 15件 | 46件 | 54件 |
2023年度 | 13件 | 47件 | 53件 |
入院期間・費用は?
入院期間の目安、および1割負担の方、3割負担の方の自己負担金額は以下のとおりです。
部位 | 入院期間 | 自己負担金額(1割負担) | 自己負担金額(3割負担) |
---|---|---|---|
胃(悪性) | 10日 | 7.1万円(食事代含む) | 20万円(食事代含む) |
胃(良性) | 10日 | 6.4万円(食事代含む) 7.1万円(2割負担、食事代含む) |
15万円(食事代含む) |
食道 | 10日 | 7.1万円(食事代含む) | 20万円(食事代含む) |
大腸 | 9日 | 7万円(食事代含む) | 20万円(食事代含む) |
入院期間は、基本的に胃や食道で8~10日、大腸で9日です。
実際には切除部位の面積が大きくなるほど出血などの合併症の可能性が高くなり、食事の開始が遅めになる傾向がありますので、病変により日数が延長する可能性はあります。それでもほとんどのケースでは約2週間で退院が可能です(ただし、部位的に術後狭窄が予想されるケースは引き続き予防的バルーン拡張を行う場合があるので、1カ月程度かかるケースもあります)。